ロボットの盲腸

sample

長い間、ボクは自分が神様によって造られたロボットだと思っていた。どんな崖っぷちを歩いても落ちる気がしなかった。機関銃で撃たれてもきっと自分には弾は当たらないと信じていた。怖いものがなかった。だって神様が造ったロボットだ。何度でも修理できる。鉄腕アトムだって何度も生き返っているじゃないか。

高3の時に盲腸の手術をした。ボクは祈った。先生、驚かないでください。ボクは人間ではないのです。手術中に大声を出すのはやめてくださいね。これは国家機密なのです。

部分麻酔なので、ボクは天井を見つめながら、先生が驚いて手を止めるのを半分期待していた。何て説明したらいいのだろう。

「あッ」好奇心の強い父もマスクをして手術室にいたが、これは先生の声だ。「お父さん、これを見てください」先生が何かを父に見せている様子だ。

ああ、ついに判ってしまったとボクは覚悟を決めた。『お父さん、ゴメンナサイ。実の子供のように可愛がってくれてアリガトウ。でも実はボクは、お父さんの子供ではないのです。神様が造ったロボットなんです』

「こんなの珍しいですよ」と先生。そりゃそうでしょう。ロボットなんて見たの初めてでしょ、先生。「へー驚いたなあ」と父。ちょっと間が抜けた返事で緊張感がない。いったい何が出てきたんだ。変な場所を触ったらだめなんだ。「どうしたの、お父さん」とボクは訊いた。胸のあたりにカーテンのようなものがあって、先生と父の顔は見えない。すると父が顔を出して「とんでもないものが出てきたぞ」とニコニコしている。なんで笑っていられるの? まさかお父さんもロボットなの?

「パチンコの玉らしいぞ。いつ飲み込んだんだ。しょうがないなあ、これじゃあ痛いわけだ」そして「先生、これもらっていいですか」と言うと父は手術室を出て行った。そして戻って来た時には、健康ドリンクの空きビンのようなものを手に持っていた。ボクはこの日を境に、自分が人間であることを不承不承自覚し、臆病になった。

ホルマリンに漬かった盲腸とパチンコの玉らしきものを入れた健康ドリンクのビンは、父が亡くなった今も、我が家の来客を畏れさせている。

 

双子の風鈴

sample

近くの神社の夏祭りに出かけた。射的が玉6発で五百円は高い。いったい今の子供たちはいくらぐらい小遣いをもらっているのだろう。ボクは射的がしたかったが、五百円という金額に躊躇した。そして傍らにあった二百円の金魚すくいに涼を求めた。破れた紙を店の人に判らないように指でおさえて、いつまでもしゃがみ込んでいると、チリリン、チリリンと頭のうえで涼しげな音がする。見上げるとガラスの風鈴が夜風に揺れていた。ああ、なんていい音なんだろう。

学生時代にホームステイでイギリスに行ったことがある。この時に持って行ったお土産は南部鉄の風鈴だった。ヒースさんはそれが何だか判らなかったらしい。WIND-BELLと言ったつもりがWINDOW-BELLと聞こえたらしく、またそれをどう解釈したか、翌日台所のドアの上部にかかっていた。しかし用途が判明してからは軒先に場所を得て、風鈴は異国の風に吹かれながらも日本的な音色を奏でていた。

帰国した年の冬、ヒースさんから手紙が来て「君の風鈴が鳴るたびに、君が滞在した楽しい日々を思い出す」という日本語にすると赤面してしまいそうなことが書いてあった。「ちょっとヒースさん。風鈴は夏の風物詩なんですよ」などと野暮な返事は書かなかった。

実は同じ風鈴を2つ買って、イギリスに行く前に自宅の軒先にひとつ下げておいた。ところが帰国すると風鈴がない。母に問い質した。

「それがね、お隣が怒鳴り込んできたのよ。都会で風鈴なんてつけている家があるかって。うるさくて眠れないって」

母はプンプンだが、確かに風の強い日は喧しいのだろう。軒が触れ合うような住宅事情では仕方ないのかもしれない。でも、風鈴も下げられないというのは寂しい限りだ。むしろ冬のイギリスで風に吹かれているほうが風鈴も幸せなのかな。

 

copyright(c) Seino Logix Co.,LTD. All Rights Reserved.