ゴーゴーかるび君

sample

スーパーにはいつも音楽が流れている。これがまた単調なリズムの繰り返しだから、買い物をしながらつい口ずさんでしまう。「さかな、さかな、さかなー」と歌っているとショッピングママたちが笑っている。「スイカの名産地、素敵なとーころよ」は小学校の先生が教えてくれた懐かしい歌なので、つい大声で歌ってしまう。ショッピングママたちが逃げて行く。遠くへ行くと歌が聞こえなくなるので、スイカの回りをグルグルと歩く怪しいオヤジだ。

新しいのを仕入れた。西友の肉のコーナーで流れていた「ゴーゴーかるび君」だ。聞くまい聞くまいと思っても、サブミナルっぽくボクの柔らかい部分に入り込んでくる。これもウォールマートの深謀か。ボクの足がかるび君に合わせてスキップを踏む。そして「かるび、かるびー ゴーゴーゴー」と歌いながら店内を歩き回る。肉のコーナーの店員に「ありがとうございます」と言われてアレレッ声が大きかったかなと回りを見るとみんなクスクス笑っている。

そもそも経営の先生に「スーパーには情報があふれている。大根の値段も知らないで経営者は務まらない」などと言われて毎週のようにスーパーを歩き回っているが、少なくとも食材ソングについては一歩先んじたと思う。試食品と間違えて売り物の商品を食べて怒られて以来デパ地下を敬遠しているボクとしては、スーパーは大切な情報源だ。

 

ソプラノ生活

sample

幼なじみのH子は趣味が声楽で、いつもソプラノだかメゾソプラノだかのキンキン声で練習している。あのさァ、もっとカジュアルに行こうぜ、というボクを汚い虫でも見るような目でにらんでまたキンキンと歌を歌う。声楽を始めてからやたらガタイが大きくなった。あのさァ、カラオケでもそんな感じなの? それじゃ彼氏どころか友達もできないだろ。飲みかけのコーヒーを下げられたが、好物のエクレアは死守した。

しかし、蓼食う虫も好きずき。ついにこの声楽太りしたH子にも春が来て、ボクも結婚式に出席した。モヤシっぽい優しそうな旦那に少々同情し、また感謝もし、お幸せにと祈った。宴もたけなわ。友人たちの自己チュースピーチが終わると、なんと夫婦で合唱するという。そうか、声楽仲間だったのか。

しかし恐ろしいことに、歌はH子のワンマンショーで、旦那はボソボソと一歩下がって口を動かしている。おいおいモヤシ君、なんでこんなことをOKしちゃったんだよ。これは君の結婚式でもあるんだぜ。声楽仲間のはずないよな、これは。きっと君はカラオケだって行ったことないんだろう。

招待客は一歩も二歩も引いて青ざめている。この空気が読めないのか。やめるなら今しかないぞ、今ならなかったことにしてやる、と汗ばむ拳を握りしめたがH子は自分を選ばれた天女と勘違いしているのか、胸の前で手を重ねて完全にトランス状態だ。しかも中の上というハンパな上手さなので笑うに笑えず、なにもみんなの前で、とみんなが思った。旦那は青い顔になって口パクパク。旦那のご両親は、蘇った死体でも見たかのように凍り付いている。うわーヤバ。

それから3年。H子は歌う女王蜂となってますます太り、働き蜂のモヤシ君が疲れて帰宅するとソプラノで癒しているらしい。幸せで良かった。

 

copyright(c) Seino Logix Co.,LTD. All Rights Reserved.