究極のセールスマン

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スーツも普段着もいつも同じ店で買うことにしている。ここの店員がすごいと言うか怖いと言うか、とにかくたいした男なのだ。ボクを覚えていて「景吾さま、よくお似合いです」とか平然と言うのだ。

「あの、その景吾さまって言うのよしましょうよ。せめて渡辺さんとか。ナベちゃんとか」

「かしこまりました」と彼は言うが、次に行くとまた「景吾さま、お久しゅうございます。今日は景吾さまにピッタリのお洋服が入荷いたしました」嘘つけーと思うが、なぜかニコニコしながら試着し、結局まんまと買わされている自分が情けない。最近はこの男がいないかどうか遠くからチェックしているのだが、このマジメな男は滅多に店を休まないらしく(気のせいか、ボクを待っているような目でいつも店の外を見ている)ボクは別の店で靴下など買ってごまかしていた。

先日、ついにこの男がいないのを確認して店に入った。欲求不満を解消するようにあれもこれも抱え込んでレジに行くと誰もいない。「すいませーん」と呼んだら、ビックリするほど近いところで「はい」と返事がした。レジの向こう側から、新着の梱包を解いていた腕まくりの男が立ち上がった。その笑顔を見て思わず「うわあー」と叫んでしまった。

「あっ景吾さま。申し訳ございません、こんなところをお見せして。でもちょうど良かった。たった今このセーターが入荷したのですが、これを着こなせるのは景吾さましかいないだろうと思っていたところです」

もちろんこのセーターを追加で買ったことは言うまでもない。もうこの男から逃げられないかもしれない。

 

超人兆治

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元ロッテのエース、村田兆治の講演を聞きに行った。54歳の今(講演当時)も140キロのスピードボールを投げる超人だ。ボクが20代の頃スピードガンで計った時には全力で80キロ、VERYGOODのランプがついた。とても同じ人間とは思えない。今でも毎日腹筋を1000回もやっているそうだ。

講演中、村田は野球のボールを持ち「誰か僕のボールを素手で受けてみたい人はいませんか」と言った。ビックリしたが冗談だと思った。800人も入っている大ホールだ。隣のうたた寝老人にぶつかったらタンコブぐらいではすまない。主催者側があわてている。

5人が手を上げた。近い人で20メートルぐらい、キャッチャーとピッチャーの距離だ。遠い人は40メートルぐらい、キャッチャーとセカンドベースの距離だ。

「胸の前に手を広げていれば、ちゃんとそこに投げるから心配いりません。そこにボールが入らなければ僕の負けです」と言うと村田はマサカリ投法で(もちろん緩いボールだが)ためらいもなく次々とボールを投げた。ウォーという大歓声。すべてのボールがスポンスポンとオジさんオバさんの手の中に入って行く。この男54歳だ。10センチと狂わないコントロール。引田天功よりすごい。失敗したら新聞やマスコミできっとさんざん叩かれるはずなのに、この自信はすごすぎる。

村田の超人的な体力と自信を見せつけられて、驚いて大口を開けている自分のフヌケ顔が大ホールの壁の鏡に映っていた。

 

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