気になる隣人

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我が家の隣人Uさんはプロレスラー並みの体格で、サングラスをかけていると、とても怖い。不動産やラブホテル、パチンコ屋などの社長をしているらしい。いくも黒塗りのベンツを乗り回し、家の回りには防犯カメラがいくつも設置してある。でも、時々ボクを駅までベンツで送ってくれたりするいい人だ。

奥さんも女子レスラー並みの体格で声がすごく大きい。そのド迫力に近所の奥様がたは引きまくって目を合わさないようにしている。台湾の人なので発音が攻撃的に聞こえるのだろう。でも中華料理を作ってウチに持って来てくれるいい人だ。

この夫婦に娘ふたりを加えたこの家族は、我が町ではとても有名な"怖い"家族で、みんな回覧板を持って行くのを嫌がっている。ピンポンを鳴らすと奥さんが出て来て大声で怒鳴るのだ。宅配便のおじさんも何度も怒鳴られて、ついにUさんの在宅がみえみえでも、我が家に荷物を預けるようになった。我が家はUさんに好かれているようで、ピンポンを鳴らしても怒鳴られない唯一の例外らしい。そして宅配便で届いた品物のお裾分けをいただいて帰ってくるのだ。

このUさん一家が突然姿を消した。いつものように台湾にでも旅行に行っているのだろう、と乾燥フカヒレのお土産でも期待していたが、どうやら今回は違うらしい。この頃では探偵らしい男が何人もU宅の回りを探っているらしい。近所のSさん宅には銀行マンと名乗る目つきの鋭い男がやって来て、Uさんのことを根掘り葉掘り訊いた揚句、最悪の事があるかもしれない、と銀行マンらしからぬ言葉を残していったらしい。またFさん宅には政府機関のものだというノッポの男が現れて、Uさん宅から線香の臭いがしないか、とこれまた気になる言葉を残していったらしい。事態はとても深刻だ。

Uさん宅の車庫はシャッターが閉まってロックされているのだが、あの中にまだ黒塗りのベンツがあるのかないのか、気になって仕方ない。

 

茶色いランドセル

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両親の部屋の黒ずんだ桐のタンスの上に、ひと抱えもある紙箱がずうっと置いてあった。ボクはそっと中をのぞいたことがある。そこには薄紙で包まれた茶色いランドセルが入っていた。幼すぎたボクは、なぜ両親がそれをボクに与えないのが疑うこともなかった。

父の親友のKおじさんはボクをとても可愛がってくれた。ボクもKおじさんが大好きだったので、Kおじさんがウチに来ると靴を隠して帰れなくしたものだった。父が留守の時もKおじさんはボクとチャッチボールをしたり、公園に連れて行ってくれたりした。

ある日、父が大声で「出て行け!」と怒鳴り、Kおじさんが顔を真っ赤にして帰って行ったことがあった。ただならぬ気配にボクは柱の陰に身をひそめてジッとしていた。父も母もボクも何もしゃべらない長い時間が経過した。2時間ほどすると、Kおじさんが戻ってきた。

「何しに来た、帰れ」と父。
「これはオマエとは関係ない。景吾とオレの約束だから」

Kおじさんは玄関の上がりがまちに何かを置き、「景吾、元気でな」と言って帰って行った。隣のウチのかどを曲がるKおじさんの背中を覚えている。そしてそれ以来、ボクはKおじさんと会っていない。

それがボクの小学校の入学祝にKおじさんがくれたものだと知ったのは、ずっとずっと後のことだ。そして父がその黄色いランドセルを捨てられず、ボクにも与えられず、後悔といっしょに自分のそばに置いていた心中をボクが悟ったのは、それからまた更にずっとずっと後のことだ。

ボクは父とKおじさんの喧嘩の理由は知らないし、訊こうにも、もうふたりとも他界してしまった。むこうで仲直りしてほしいと、心からそう思う。

 

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