学生カツカレー

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友人が八景島シーパラダイスに餃子の店を出したというので、天気の良い日を選んで、トコトコと自宅から歩いて行ってみた。でもない、どこにもないぞ。案内所で訊いたけれど、そんな店は知らないという。腹が立ったら腹が減ったのでレストランに入った。入口にイーゼルに乗ったメニューがあって、『学生カツカレー1050円』という文字が一番に目に飛び込んで来た。

「すいません。学生じゃないんですけど、学生カレーを頼めますか」
「大丈夫だと思いますよ」とアキバ系のウエイトレスが笑う。なんだよ、注文して笑われるようなものをメニューに載せるな、と言ったらタダのオッサンになってしまうので、こちらも笑顔で我慢した。

最近奥歯を抜いて、まだブリッジをかけていないから穴がポッカリと空いたままだ。だから蕎麦を主食にしていたが、本当に腹が減った時は、男はやっぱりカツ丼かカツカレーだ。

「申し訳ありませんが、学生カツカレーは学生さんしか注文できないんですけど」と突然うしろから男の声がした。振り返ると蝶ネクタイのマネージャーが立っている。なんで前から来ないんだ。ボクは今、自動車学校の生徒だぞ。ボクはここの区民だぞ。大きい声出すぞ。などなど抵抗してみたが、この蝶ネクタイはなかなかの人物でいっこうに動じない。そればかりか、「お子様ランチもお子様だけなんですよ」と重ねて来た。

「でもカツカレーならありますけど」
「えっ何が違うの?」
「学生カツカレーにはポテトが乗っていないんです」
「わかんないなあ。違いはそれだけ?」
「値段が違います。1200円です」
「ポテトが150円ってこと? ま、いいや。大人げないからそれで我慢しよう」と十分に大人げない態度でボクは普通のカツカレーを注文した。

やっぱりポテトが決めなんだ、学生には判らないんだろうな、ポテトの深い味わいが。とか自分を納得させているうちに、また腹が立ってきた。だいたい餃子の店はどこにあるんだよ。

 

鬼門の虫たち

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そもそも風水師という資格はないと思うのだけれど、鮑式風水の免許皆伝というか卒業証書というか認定書のようなものを持っているので、ボクは自称、風水師である。実績でもなんでもないが、日本から何人もの社長を連れて香港へ風水ツアーに行ったこともある。

ボクは方角にこだわる。鬼門とは北東をさす。十二支でいうとうし丑ととら寅の間にあるので、鬼は牛の角を生やし、虎皮のパンツをはいている。家相(風水では陽宅という)を見る時にいちばん大切なのは、この鬼門(北東)や裏鬼門(南東)の方角に何があるかを調べることで、そして敷地内のこの部分は常に清潔に保っておかなければならない。

我が家の裏鬼門は玄関だが、鬼門は陽が当たらないだけでなく、ゴミが吹き溜まる場所だ。裏庭にあたるので、滅多に行くこともない。でもゴミだらけなのは知っていたので、先日ついに自称風水師は大掃除をすることにした。

ユズリハの樹の下は枯れ葉やヤブカラシなどの雑草だけでなく、ビニールや牛乳のパックやボールペンまで出て来る始末だ。鬱蒼としていたユズリハの樹はスポーツ刈りにしてあげた。ゴミを大きな袋3つに詰め込み、黒土も入れた。すると、その黒土がモコモコと動き出し、ユズリハの樹の幹もなんだかブツブツ言い出した。なんだ、なんだ。

すると、誰かさんのように太陽が大嫌いで、清潔が大嫌いな奴らがゴッソリ出て来た。ムカデ、ヤスデ、ダンゴムシ、クモ、どこにいたのかガマガエルの子供まで、まるで舌きり雀のおばあさんのつづ葛ら籠から出てきそうな気味の悪い生物がゾロゾロと這い出してきた。しかし、よく観察していると、奴らはみな東隣のG宅に向かって移動している。こりゃいいぞ、行け行けと応援する風水師。指で印を結び、まるで自分の霊力で奴らを動かしている気になっているのは風水師というよりは陰陽師だ。

それから2週間経った日曜日。裏庭の様子を見に行って驚いた。西隣のM宅の旦那が、M宅にとっての鬼門(我が家にとっては北西)にあたる場所を掃除しているではないか。「あれ、どうしたんですか?」と震える声を抑えて訊くと旦那はこう応えた。

「いやあ、オタクが裏庭をきれいにしているのを見て、鬼門ぐらいきれいにしておかなくちゃと思ってね」

気のせいだろうか、ダンゴムシが一匹、垣根を越えて我が家に入って来た。

 

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