コーヒーブレイク|セイノーロジックス株式会社

【第31話】冬のシャワー

作成者: セイノーロジックス株式会社|2025.07.31

~ セイノーロジックス創業社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~

ある年の十二月の土曜日、香港の親友ダニーが横浜のボクの家に泊まりに来た。大阪から夜の新幹線に揺られてふたりともクタクタに疲れていた。でもダニーは仕事熱心な男で、十二時を過ぎてもまだボクに難しい質問をしてくる。つきあって起きていた妻のマブタは完全に閉じてしまい、それをダニーに悟られはしないかとボクはヒヤヒヤしていた。ボク自身、マブタといっしょに口も重くなり、我が家はマシンガン・ダニーの早口英語の独壇場と化していた。そしてそのうちに、ようやくダニーも彼から見えない側のボクの目が閉じている事に気づき、ムッとして黙ってしまった。午前一時はとっくに過ぎていた。

「風呂が沸いているから先に入れよ。もう遅いから話は明日にしよう」ボクの声に妻はハッと目を覚まし、あわててタオルの用意を始めた。

それから三十分後にダニーは湯からあがり「いつでも6時半に起きることにしているが、気にしないで寝ていてくれ」と充分気になることを言ってサッサと寝床に消えて行った。

日曜日の朝ぐらいゆっくりしたい、とプリプリしながら2階へあがって行く妻に心の中で手をあわせ、ボクはストーブの前で裸になり、風呂場へ飛び込んだ。風呂の湯は流されてカラッポだった。それはそうだ。説明しなかったボクがいけない。でもその時の寒かったこと。シャワーはなかなか湯にならず、風邪を引いたボクは寝つくまでにティッシュを一箱使ってしまった。