~ セイノーロジックス創業社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~
金魚屋に藻を買いに行くと、夏でも自動車の修理工のようなツナギを着ているオヤジがニコニコしている。「なんかあったの?」「ほら、好きだろ。見ろよ、そのツノのカーブ」ザリガニやスズムシ、カブト虫に混じって、先週までいなかったノコギリクワガタがいた。おお、ノコギリ君。ボクは躊躇わずオスを2匹買った。カブト虫の2倍近い値段だ。ツナギ・オヤジはボクの趣味をよく知っている。
「カブトはすぐ死んじゃうから安いんだ。クワガタは見た目もスマートだし長生きだからな。ノコギリは4ヶ月生きる。オオクワやヒラタは5、6年生きる。だから高いんだ。犬を飼うのといっしょだよ。オオクワは十万円するぞ」
驚きを顔に貼付けたまま帰ろうとすると「あ、待って待って。クワガタ用の土はあるの? ケースは? 土は? ゼリーは?」これは大散財だ。でもさっそくウチに戻ってクワガタケースに十センチほどクワガタ土(オガクズ?)を入れて、クワガタの家というクヌギの木片を入れ、最後にクワガタ様を2匹入れた。あれれ、急に2匹とも活発になって土の中に潜り込んで、それっきり出てこない。何日経っても出て来ない。夜中には出て来るらしく、ゼリーは減っている。でもまったく姿を見る事はない。
くやしいので引きずり出してクワガタの家に乗せてやると、9秒9の速さで土の中に逃げ込む。キュウリを2切れ放り込んでおいたら、翌朝なくなっていた。まさか全部食べたとは思えない。ボクは土を掘り返してキュウリを発見した。こんなことばかり繰り返してボクもクワガワもヘトヘトになってしまった。4ヶ月生きるはずのクワガタ1号は2週間ほどで過労死してしまった。
後悔したボクは土を全部出してしまえば隠れる所がないと思い、クワガタの土をすべて捨てて、代わりにクワガタの家を3つほど追加した。四六時中ボクに見つめられていたクワガタ2号はまもなくストレスにより精神に異常をきたし、片方のツノをクワガタの家の隙間に突き刺したまま逆さまになって死んでしまった。
今度ツナギ・オヤジに会ったら言ってやろう。クワガタはオスメスの番じゃないと長生きしないぞって。