2024.02.28

【第16話】双子の風鈴

~ セイノーロジックス前社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~


近くの神社の夏祭りに出かけた。射的が玉6発で五百円は高い。いったい今の子供たちはいくらぐらい小遣いをもらっているのだろう。ボクは射的がしたかったが、五百円という金額に躊躇した。そして傍らにあった二百円の金魚すくいに涼を求めた。破れた紙を店の人に判らないように指でおさえて、いつまでもしゃがみ込んでいると、チリリン、チリリンと頭のうえで涼しげな音がする。見上げるとガラスの風鈴が夜風に揺れていた。ああ、なんていい音なんだろう。

学生時代にホームステイでイギリスに行ったことがある。この時に持って行ったお土産は南部鉄の風鈴だった。ヒースさんはそれが何だか判らなかったらしい。WIND-BELLと言ったつもりがWINDOW-BELLと聞こえたらしく、またそれをどう解釈したか、翌日台所のドアの上部にかかっていた。しかし用途が判明してからは軒先に場所を得て、風鈴は異国の風に吹かれながらも日本的な音色を奏でていた。

帰国した年の冬、ヒースさんから手紙が来て「君の風鈴が鳴るたびに、君が滞在した楽しい日々を思い出す」という日本語にすると赤面してしまいそうなことが書いてあった。「ちょっとヒースさん。風鈴は夏の風物詩なんですよ」などと野暮な返事は書かなかった。

実は同じ風鈴を2つ買って、イギリスに行く前に自宅の軒先にひとつ下げておいた。ところが帰国すると風鈴がない。母に問い質した。

「それがね、お隣が怒鳴り込んできたのよ。都会で風鈴なんてつけている家があるかって。うるさくて眠れないって」

母はプンプンだが、確かに風の強い日は喧しいのだろう。軒が触れ合うような住宅事情では仕方ないのかもしれない。でも、風鈴も下げられないというのは寂しい限りだ。むしろ冬のイギリスで風に吹かれているほうが風鈴も幸せなのかな。