2026.03.30

【第38話】擬態

~ セイノーロジックス創業社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~

「擬く」という字を読める人は少ないと思うが「もどく」と読むのだと教えても意味が判る人はなお少ないだろう。この名詞形は「もどき」で、辞書には「まがいもの」「にせもの」とある。

ボクがこの言葉と出会ったのは、月光仮面と並び称されたヒーロー「ナショナル・キッド」の悪役「人間モドキ」だ。彼らは凶悪宇宙人が地球征服のために送り込んだ宇宙の下等生物だったと思うが、目も鼻もなく、形が人間なだけで、キッドにやられると黒い水たまりになって死んでしまうのがとても可哀想だった。彼らは子供や女性を誘拐するのが精一杯で、キッドにパンチ一発当てることのできない哀れなモドキだった。人間モドキも本当は人間になりたかったんだ、なんてロマンのスパイスを振るとますます可哀想になる。

次の出会いは一般的だが「ガンモドキ」だ。味がガン(雁)に似ているという理由での命名らしいが、ガンを食べた事がないので比較の仕様がない。ガンモという別の食べ物と考えた方が良さそうだ。

昆虫や草花にはモドキのつくものが多い。昆虫にはアゲハモドキ、カマキリモドキ、コオロギモドキ、ショウジョウバッタモドキ、中にはフンコロガシモドキという「本物になったところでフンコロガシ」という涙を誘う虫もいる。草木で一番有名なのがウメモドキ。これはなかなか素敵な花を咲かすので別の名前ならもっとメジャーだったと思われるだけに(本人も)残念だろう。ガンモドキは雁の肉がポピュラーでなかったので市民権を得ることができたが、普通は、梅や人間やアゲハやコオロギになれないという悲しみに満ちている。擬態を英語ではMIMESISと言うが、この語源はMIME(パントマイム)で、なんとなく共通の悲しみが伝わってくる。

モドキと名前につかなくても、擬態は昆虫や海洋生物の中でも弱いものに多く見られる。強敵から身を守るために羽に目玉の模様をつけたり、また自然界の一部になったフリをしたり、一所懸命だ。樹の幹とソックリの蛾を見つけた時に、ボクに気づいて後ずさりする様など見ると「違う違う、敵じゃないよ」と言ってやりたくなる。

よく「第二の○○になるんだ」なんて言ってがんばっている人がいるが、ボクは第一の君でいいじゃないかと思う。