2026.09.30

【第45話】次郎ちゃん

~ セイノーロジックス創業社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~

先週末から我が家の周辺は暗い空気に包まれて、笑い声など立てられない状況だ。実は隣家に住む14歳の次郎ちゃんが死んだのだ。と言っても飼い犬の次郎ちゃんだが。いつも九十歳のおばあちゃんと散歩をする姿を見ていたので、むしろおばあちゃんがショックで倒れてしまうのではないかと心配だ。

ご主人はゴミ出しの時に「次郎が死んでしまいました」とガックリうなだれていた。奥さんは悲しみでご飯がノドを通らないらしくスッカリやつれてしまった。そして娘は嫁ぎ先から孫を連れて飛んで帰ってきた。

近所の奥様たちは「喪服着て行く?」「派手じゃなければ普段着でもいいんじゃない」などと相談しながら香典やら生前次郎ちゃんが好きだった『かをり』のレーズンサンドなどを持って通夜に出かけた。

次郎ちゃんは桐の箱に入れられて仏壇の前に置かれ、モウモウと炊かれた線香の煙でかすんで、とても貴く見えた。ずっと下を向いていたおばあちゃんが顔をあげて「チコちゃんにもお別れをさせてあげたい」と嫌なことを言った。チコとは我が家の愛犬ヨーキーで、次郎ちゃんとはプラトニックラブな関係だった。「えっ、んーそうですね、でもチコの場合は、んー」とか言ってごまかしていると奥さんが「知らせないほうが幸せってこともあるから」と助け舟を出してくれた。

しかし、これは人間並の扱いだ。まだ喪が明けていないのか、今夜も隣家はちいさな電気がひとつ灯っている程度で話し声も聞こえない。いつも家で踊りながら大声で歌っているボクとしては、息苦しくて壁をかきむしる日々である。